注目集める新興国の金購入発言

欧州の中央銀行の金売却が減少している。近年の価格上昇で資産価値が上がって売り急ぐ理由が薄れてきたためで、中銀の売りが価格低迷の一因となった1990年代とは様変わりした。一方でロシアや中国などの中銀からは購入を示唆する発言が相次いでいる。金市場での公的機関の動向は、「売り」から「買い」に注目点が変わってきている。

欧州の15中銀はこれまで金の売却上限を年500トンに定めたワシントン協定に沿って保有金を放出してきた。しかし英調査会社のゴールド・フィールズ・ミネラル・サービシズ(GFMS)によると、今年9月26日の売却期限までの売りは393トンどまり。協定発効以来初めて上限枠を割り込んだ。

協定の発効は金価格が低迷していた99年9月。英中銀の売却表明を受け、ニューヨーク市場の先物価格が20年来の安値である1トロイオンス260ドル前後に落ち込んだ時期だ。各国の中銀は先安観から金を手放し、高利回りの米国債などに運用先をシフトした。その後、米同時テロなどを経て「有事の金」の価値が見直され、投資マネーの流入で価格が上昇。調整局面にあるとはいえ現在も570ドル前後で推移しており、慌てて手放す必然性は乏しい。

欧州の売りに代わって注目を集めるのが、新興国による購入だ。9月中旬にはロシアの中銀幹部が、外貨準備の一部を金に換えることを示唆したと伝わった。貴金属アナリストの亀井幸一郎氏は「石油輸出で膨らんだ外貨をドルだけで保有するリスクは認識しているはずで、実現性は高い」と指摘する。

今年7月にはアラブ首長国連邦(UAE)の中銀総裁が、外貨準備の10%を金に換える意向を示唆して話題となった。中国でも中国国務院発展研究センターのエコノミストが8月に、金の保有量を積み増すべきと提言した。

これらの発言は時期を示しておらず、「観測気球」との見方もある。ただ公的機関の動向はこれまでも金需給に大きな影響を与えてきた。初めて協定の売却枠に届かなかった今年は、中銀の「買い」の方が注目を集める転換点になるかもしれない。