01年の日航機ニアミス事故。管制官2人の有罪確定へ。

静岡県焼津市の上空で2001年1月、日本航空(JAL)の旅客機2機が異常接近(ニアミス)し、多数のけが人が出た事故で、最高裁第一小法廷(宮川光治裁判長)は、業務上過失傷害罪に問われた管制官2人の上告を棄却する決定をした。26日付。2人を執行猶予付きの禁固刑とした二審・東京高裁判決が確定する。

5人中4人の裁判官の多数意見。行政官出身の桜井龍子裁判官は無罪とする反対意見だった。ニアミス事故で管制官個人が起訴された初めてのケース。今回の決定は今後の責任追及のあり方をめぐる議論に影響を与えそうだ。

有罪が確定するのは、訓練中に誤指示を出したとして禁固1年執行猶予3年とされた蜂谷(はちたに)秀樹被告(36)と、指導役として禁固1年6カ月執行猶予3年とされた籾井(もみい)康子被告(41)。禁固以上の有罪が確定すれば、国家公務員法により2人は失職する。

管制官側は「ニアミスは衝突防止装置の指示に反して1機が降下した異常事態によるもので、誤指示と因果関係はない」と無罪を主張。上告審でも誤指示とニアミスの因果関係や、けが人が出ることを予測できたか(予見可能性)が争点になった。

第一小法廷は、蜂谷管制官が958便でなく上昇中の907便に誤って降下を指示したことについて職務上の注意義務違反があり、籾井管制官も是正しなかった過失があると認定。その上で、907便の機長が空中衝突防止警報装置(TCAS)の上昇指示に反して降下を続けた点について「誤指示に大きく影響された」と述べ、誤指示とニアミスとの因果関係を認めた。

さらに、管制官2人は当時の知識でもTCASが958便に降下指示を出す予測はできたと指摘。「2機がともに降下して異常接近すれば、衝突を避けるため急降下などの措置が余儀なくされる」と述べ、けが人が出る予見可能性も認めた。

当時は管制官とTCASの指示が矛盾した場合の優先順位が明確に決まっていなかった事情にも触れたが、「ニアミスの責任すべてを両被告に負わせることは相当でないことを意味するに過ぎず、業務上過失傷害罪の成否を左右しない」と述べた

。反対した桜井裁判官は、誤指示が不適切な行為でニアミスのきっかけになったことは認めつつ、当時はTCASの指示を管制官が即時、確実に把握できるシステムがなかったことや、機長がどちらの指示を優先するか教育・訓練が不十分だった事情を重視し、「過失犯として処罰できるほどの予見可能性はなかった」と刑事責任を否定した。

現在では、管制官とTCASが異なる指示を出した場合、TCASに従うルールになっている。