ステンレス、最高値更新の勢い

建築物の外装材や厨房(ちゅうぼう)器具など、日常生活にもなじみの深いステンレスの騰勢が止まらない。指標品種であるニッケル系SUS304(厚さ2ミリ)の市中価格は現在、東京・大阪とも1トン44万―45万円。年初に比べると実に1.5倍だ。世界的な需要増を映して鋼材価格全般が上昇基調をたどっているが、ステンレス鋼の値上がりはその中でも群を抜く。

ちなみにこれまでの国内最高値は1980年7月につけた53万5000円。すでに国内最大手の新日鉄住金ステンレス(東京・中央)は10月契約分(11―12月出荷)について販売価格を前月比2万5000円高の1トン51万円にすると表明した。このため、市中価格は年内にも過去最高値を更新する可能性が高まってきた。

ステンレス価格上昇の最大要因が原料となるニッケルの高騰だ。世界的な非鉄金属への投資熱から昨年10月を直近の底に、その後はほぼ一本調子で上昇。現在は1ポンド14ドル台と、昨年10月につけた底値の3倍弱。銅や亜鉛など他の非鉄金属の値上がりはやや一服感があるが、ニッケルについては「いまだに天井が見えない」との声が支配的だ。

投機資金がニッケルの高騰を招いた側面はあるが、一方で実需が伴っているのも事実だ。特に欧州では需給が逼迫(ひっぱく)。中東でもオイルマネーによる石油プラントや海水淡水化プラントなどの需要が好調だ。欧州の好調な需要が中国をはじめとするアジアからの欧州向け輸出増を招き、さらに日本からアジアへの輸出増につながるという循環をもたらしている。日本からのアジア向け輸出価格も現在は1トン4000ドル超と、こちらも年初の1.5倍だ。

国際ステンレス鋼フォーラム(ISSF)が10月にまとめた2006年の世界のステンレス粗鋼生産見通しは前年比14%増の2780万トン。過去最高値水準にもかかわらず年率約6%の成長性を見込んでいる。業界では来年以降、中国の能力増強に伴う需給緩和を懸念する「2006年問題」がトピックスとなっているが、現在の旺盛な需要はそれさえかき消してしまうほどだ。