暴力団排除条例は一般市民にも「一定のリスク」を負わせる形となる。

"警察vs暴力団"に広げる暴力団排除条例(暴排条例)が10月1日、東京都と沖縄県で施行され、全都道府県でそろう。社会全体で暴力団と断絶することを目的に、市民や企業の側に関わりをやめる責務があると明示したことが条例の特徴だ。違反した場合は一般事業者でも氏名を公表される可能性があるなど厳しい内容だが、警察当局は「暴力団との関係を遮断する千載一遇の機会」としている。

強力な武器

「対策はしてきたつもりだったが、結果として不十分だった。暴力団排除に向け、協力をお願いしたい」

28日、吉本興業の大崎洋社長が大阪府警本部を訪れ、所属タレントだった島田紳助さん(55)=本名・長谷川公彦=が暴力団幹部との交際を理由に引退した問題を受け、府警に支援を求めた。同社関係者は訪問の意図について「暴排条例の存在が大きい。社の体制も時代に即したものに変えなければ」と話す。

「どんな形でも暴力団との接触は許されないという意識は確実に広まった。想像以上に強力な武器だ」。同社の積極的なアクションに、府警幹部は条例への手応えを感じたという。

水面下の資金源

暴排条例は昨年4月に福岡県で初めて施行された。福岡には全国最多の5つの指定暴力団が本拠を構え、抗争事件が多発している。県弁護士会民事介入暴力対策委員長の堀内恭彦弁護士が「『福岡は危険だ』という評判がたち、企業進出にも悪影響が出た」と指摘するように、先駆的な取り組みが必要な理由があった。

その後、急速に全国での条例制定が進んだが、背景には、暴力団排除活動の歴史と、暴力団の資金獲得方法の変化がある。

平成4年に暴力団対策法が施行され、組員による暴力的な資金獲得は困難になった。半面、あからさまな行動を控え「共生者」と呼ばれる協力者を一般社会に紛れ込ませ、金を吸い上げる形が増加したとみられる。暴排条例は、こうした水面下の集金システムに切り込むことが狙いという。

報復防ぐ対策を

大阪府では、これまで警察への相談を控えてきた複数の商店主が今年、府警に「暴力団から定期的に金を徴収されていた」と申告。「関係を断ち切るなら今しかない」という捜査員の説得に応じたものだった。しかし、完全に関係を断ち切るのは難しいという声もある。

「条例があっても、断ったときにどうなるか分からない」。福岡市の歓楽街・中洲の飲食店約1600店に「暴力団の威力を利用しない」とする宣言書の提出を求めたところ、約500店は「嫌がらせをされる」などと拒んだという。

条例は一般市民にリスクを負わせる可能性もあり、警察当局には、暴力団の報復などを防ぐ責任がこれまで以上に強く求められる。大阪府警幹部は「市民が暴力団に攻撃されないよう対策に努めたい」と話した。

暴排条例は、巨大組織の封じ込めにも効果的だ。

弘道会は資金力で山口組を乗っ取った。資金源から莫大な金を吸い上げていることは間違いない」。国内最大の指定暴力団山口組を実質支配しているとされる直系組織、弘道会を抱える愛知県警幹部は、条例が弘道会の弱体化につながることを期待する。

愛知県条例では、名古屋市の繁華街「錦三地区」などを暴力団排除特別区域として指定した。弘道会が用心棒代などを吸い上げ、資金源としているとみられるためで、区域内の飲食・風俗業者がトラブル解決の見返りに用心棒代を支払うことを禁じた。受け取った組員はもちろん、業者側にも罰則が設けられている。

県警は「半ば積極的に金を渡す業者もおり、何としても収入源をカットしなければならない」と特別区域の拡大も検討している。

一方、山口組総本部(神戸市灘区)がある兵庫県の条例では、全国で唯一、組員らが出入りするマンションなどを準暴力団事務所と定義。新設が確認されれば組側に運営中止命令を出し、従わない場合は罰則を与える条項を盛り込んだ。

県外に拠点を置く直系組長らは、マンションを別宅として使用。組員も多数出入りしているが、組事務所とはいえないため、これまで対処が難しかった。県警幹部は「総本部を抱える警察として、全国の先駆となるような条例適用を進めたい」としている。