オンデマンド婚の子育て

オンデマンド婚の子育てでは、子どもを妊娠するまでは夫婦が同居。実際に妊娠し、子どもが生まれたら夫婦は別居する。妻は実家で暮らしながら子育てをし、夫には必要なときだけ会う。仕事と育児を両立するなら、夫に協力を求めるより、実家の援助を得たほうが都合がいいからだという。こんなふうに実家依存で子育てをする人が増えるほど、実家に頼れない人との格差が広がる。十分な経済的援助や育児協力が得られる母親と、期待できない母親とでは、子育ての在り方がまったく違うものになるだろう。

実家に頼らず子育てをしている母親は、本来ならば自立を誇っていいはずが、むしろ援助や協力を得られない自分を「負け組」のように捉え不満を募らせる場合もある。「自分の親と一緒に海外旅行に行ったとか、実家の援助でマンションを買うとか、周囲にはそんなママがすごく多いんです。私のように、実家からの援助どころか、毎月実家に仕送りしてる主婦は、なんだか貧乏くし引いちやってるなあって気分です」私か講師を務める子育て講座に参加していた三〇代の母親はそう嘆息した。夫は親と不仲で実家に頼れない。自分の実家では持病を抱えた高齢の父親がひとり暮らし、アテにするどころか自分たちが親に援助をしなくてはならない。経済的にも精神的にも親は負担にこそなれ、協力などまったく期待できないというのだ。

「主人はまじめに働いてくれるし、私もそれなりに子育てをがんばってるつもりです。だけど、やっぱり実家に頼って楽してる人や親に甘えきってわがまま言ってる人を見ると、世の中不公平にできてるなあって腹が立ちますね。同じ母親と言っても、実家っていう金庫があるかどうかで全然身分が違うでしよ。親に甘えてるママが、子育て大変だわあ、なんて愚痴を言うのを聞くと、どこが? つて言い返したくなりますよ」

実家は金庫、それがあるかどうかで身分が違うとは、確かにやりきれない話かもしれない。みずからの努力で状況が違ってくるならともかく、実家の援助があるかないかといったことは自分の力でどうなるものでもない。いわば運のようなもので「母としての身分」が変わっては、不満も募ってしまうだろう。駆けつけ祖母やオンデマンド婚などという現象があらたな格差を呼び、母親同士を分断していくことにもなりかねない。

ここ一年ほど、取材する母親から「マザハラ」という言葉を聞く。マザーハラスメントの略でマザハラ、子育て中のお母さんに対するバッシングや心ない言葉、態度などを指す。いわばセクハラ(セクシャルハラスメント)の母親版だ。私も「マザハラ」には共感する部分が多い。たとえば妊娠中の女性に向かって「でっかい腹」などと蔑む。赤ちゃんを抱いたお母さんに「邪魔だ」と怒鳴る。「子どもが犯罪者になったのは母親の責任だ」と根拠もなく責める。そうした表現や風潮は決して許せるものではなく、まさに不適切な言動、相手を認める行為にほかならない。