原理的に完全な方法

両者の差に関して実際には研究者は実験群と統制群との変化を、比較するという方法をとっている。つまりもし実験群における変化が、統制群における変化よりも期待される方向に大きく動いていれば、フィルムの効果があったと判断できるのである。この場合重要なのは、すでに読者が気づいておられるように、統制群を使用することの利点は、被験者自身の持つ種種の変数、つまり教育水準とか、知能とか、人種的背景とかを、統制するだけではない。

統制群を導入することによって、研究者はそれ以外の変数、つまり兵営での訓練の効果とか、兵営外で生じた大きな事件の影響をも、統制することが可能になる。それは原則としてこれらの外界の出来事は、すべて一様に実験群と統制群の両方に、同様の影響を与えていると考えられるからに他ならない。だから被験者自身の持つ特性と同様、研究者は実験群と統制群とを比較することによって、これらの外界の影響をも自動的に統制することができるのである。

実験法はこのようにして因果法則の存在を推論するための三原則を、満足させることができる。すなわち独立変数の先行、独立、従属両変数の共変、それに他のすべての変数の統制を、行うことができるのである。この方法は研究者が現実の状況を直接に統制し操作する方法である。つまりこの方法は実験群と統制群を作り、実験群にだけ独立変数を示すというように、研究者が実際に状況を操作する方法である。

そこで実験群的方法は状況操作(situational manipulation)の方法と呼ばれる。このような状況操作の方法は、ローソクの焔をフラスコで覆うというような、自然科学の方法を、いわばそのまま社会の研究において再現しようとした方法に他ならない。その意味で実験的方法は、社会科学の方法のなかでも、原理的にはもっとも完全な方法ということができる、限られた方法でもある

しかしながら実験的方法はその厳密さの故にこそ、社会科学の方法としては、きわめて限らた方法となることに注意しなければならない。第一に社会に関する多くの重要な問題を実験において研究することは、倫理的な問題を生む可能性を持っている。たとえば社会的敵意の実験を行うため、かつてサマーキャンプの参加者を、被験者として研究が行われたことがある。