生き残り競争と淘汰

マイノリティの労働者にとって、自動車産業は主要な雇用先だった。五、六年前の自動車不況のとき、彼らは大量に失業し、職安で失業保険を受給していたのをわたしも目撃している。コール教授は、郊外や農村部に進出してくる日本企業は、スラム化した都市に住む黒人の雇用に貢献しにくい。どこか彼らを嫌っている日本は、中曾根首相のアメリカの少数民族蔑視発言もあって、ちかい将来、彼らに反発されるであろう、というのだった。

「本来、おたがいのコミュニケーションは、日がたつにつれてうまくいくようになるのだが、日事企業の場合は、時間につれて難しくなっているようだ」とは、ブーチック助教授の観察である。反労組主義、少数民族への差別。。単一民族”日本人の意識は多民族国家アメリカのなかで、これからさまざまな問題を惹き起こしそうだ、という予感を、三人の日本研究者とのミーティングでわたしはもった。

たとえば、もしもこれから、現場労働者の管理にうまく成功したにしても、ホワイトカラーの処遇の問題かある。彼らをどれだけ幹部に登用するのか。技術者の扱いをどうするのか。秘密結社めいた「日本的経営」のなかで、どれほど「決定」に参加させるのか。さらに、スカウトと転職が常識のアメリカ社会で、どれはどの「企業意識」を植えつけられるのか。マイノリティからの日本企業への批判ばかりが問題でない、とコール教授はいう。

「マイノリティに反感をもったり反労組的であったりするアメリカ国民のターゲットが、日本人にすり替わる可能性もある。何年かあとにくる景気後退のとき、進出した日本企業に重大な問題が生じることになるのではないか」それが親日家のコール教授の警告である。アメリカにおける日系自動車の生産は、八六年で本田、日産、トヨタ・GM合弁の三社で六一万六〇〇〇台(このうち、トラックが一〇万八〇〇〇台)である。一九九〇年になって、建設および計画中の各社の生産が本格化すれば、一六五万台、このほか、カナダが三五万台、あわせて二〇〇万台となる。

アメリカの乗用車市場の規模は、年間一一〇〇万台前後、といわれている。このうち、日本からの輸出分か二三〇万台、それに一五〇万台がくわわるので、合計三八〇万台と三〇パーセントを占めることになる。すでに、韓国車のポニー(現代自動車)の輸出が好調で、やがて一〇〇万台に達するとみられ、このほか前述のように、ユーゴ、ブラジルなどからの低価格車も輸入されるようになった。供給過剰の基調は崩れそうもない。一五〇万台から二〇〇万台が過剰になるとみられている。生き残り競争と淘汰がこれからアメリカ市場で展開されるであろう。