英語の第二公用語化問題

「リベンジ」−「復讐する」。中・高校の英語授業ではそれほど頻繁に出てくる言葉ではない。が、サッカーや野球のプロ選手がよく使っている。若者たちの間ではよく出てくる。

あの西武ライオンズ松坂大輔投手も使った。不本意な敗戦の後など「次はリベンジします」といったように。それがまた、スポーツ紙の見出しになったりする。

「カリスマ」−これまた、政治学社会学で使われる、かなりいかめしい言葉だ。しかし、若者たちは、ポップス歌手などの品定めに使ったりする。「大物」であることを指して「あいつそうとうなカリスマだぞ」と言ったりする。若者が車を運転しながら耳を傾けるディスクージョッキーは、英語の中に日本語が少し混じっている、といってもよい。

日本への英語浸透の決定版は、「英語の第二公用語化」である。小渕時代につくられた首相の私的諮問機関「二一世紀日本の構想懇談会」(座長、河合隼雄国際日本文化研究センター所長)は、英語を日本の第二公用語にすることを提案(二〇〇〇年一月十八日)している。

旧弊なナショナリズムに従えば、国辱的とさえいえよう。特に「安保体制の下で軍事・外交的に主体性を米国に奪われている」と主張する左右両極の人々は、日本の公文書が日英両語で作成されるといった事態に、強い反感を覚えるに違いない。

しかし、各種の国際会議が英語で行われ、また重要な国策の決定は国内にとどめておくことはできない。対外的にも周知徹底していかねばならないほどに、日本の国際社会における位置付けが高まっていることからすれば、「公用語化」を正式に決めなくても、各種の重要な政策決定や公文書は、英訳されざるを得ない。すでに現在でも、外務省のホームページは、和・英双方でつくられているのである。

もちろん、主要政策が英訳されて日本内外の外国人の便宜を図ることと、「英語の公用語化」とは質的に異なっている。極論すれば、英語への翻訳以前のこととして、政策決定の内容自体を英語に、さらには国際社会一般の通念になじむようにしていくことこそ、「英語公用語化」の本旨といえよう。

ここに至って、英語はアラビア数字やアルファベットと同様、その出自をいい立てる余地もないほどの普遍性を持つことになる。エスペラントには果たせなかった「世界語」である。

それは、学術論文や外交文書を著すのに適した言語的明確さと、ロシア語はもちろん、仏、独などの欧州語に比べた文法上の簡明さの双方を備えた、言語自体のメリットが基礎になっていよう。

もちろん、エスペラントのような人工言語にはないもの、つまり大英帝国、ついで米国という軍事、経済両面の覇権国パワーが、強い後ろ盾となっていることは否めない。