攻撃能力を誇示する

九州西方・熊本県沖の空域で、4月21日から2日間、千歳と小松基地所属のF15戦闘機が、米空軍嘉手納基地から飛来したKC135空中給油機と共同しつつ、はじめて空中給油を実地体験した訓練概要を伝えるものである。空自報道資料によれば、この訓練は「初めて導入する空中給油機能の運用態勢の確立に向け」とされる。2007年度中に配備予定の空中給油・輸送機(KC767)を先取りした「米軍給油機からの受油訓練」であった。空中給油により、戦闘機の行動半径は格段に延びる。およそ専守防衛にはそぐわない装備であり訓練だといえる。しかし報道資料には、訓練が近隣諸国に与える懸念や専守防衛政策との整合性などについての説明は見あたらない。

空中給油機は、かつて「持てない装備」の一つだとされていた。1973年の国会で、田中角栄首相は、空中給油機の保有に関して、「第一点、空中給油はいたしません。第二点、空中給油機は保持しません。第三点、空中給油に対する演習、訓練その他もいたしません」とする「田中三原則」を打ち出し、専守防衛の下で空中給油機保有はありえないと断言した(参議院予算委員会、1973年4月10日)。しかし1990年代、北朝鮮の脅威が叫ばれるようになると、この方針はくつがえされ、「検討」から「整備」、さらに「配備」へとなし崩しに後退した。

名称を空中給油機でなく「空中給油・輸送機」に変更し、純給油機ではないとした。そして、災害派遣時の輸送にも利用することを名目に、「田中三原則」を実質くつがえした。さらに2007年度に予定された導入時期を待ちきれずに「米軍給油機からの受油訓練」へと踏みこんでいくのである。熊本県沖から朝鮮、中国沿岸までは、ほんのひと飛びの距離でしかない。腹いっぱい燃料を再補給した戦闘機は朝鮮半島北端まで楽に往復できる。すでに保有済みの空中警戒管制機AWACS)と組み合わせれば、司令部ごと日本列島を遠く離れた空域で作戦可能となる。

だから空中給油訓練は北朝鮮への攻撃能力を誇示するデモンストレーションでもある。自衛隊が、北朝鮮直近の場所で、敵基地攻撃論がくすぶる時期に、しかも先制攻撃意図をかくさない米軍と、空中給油訓練に踏みきったねらいは、翌年の「○四大綱」に示された「北朝鮮の軍事的な動きは、地域の安全保障における重大な不安定要因である」という認識を先取りしたものであると受け止めねばならない。この訓練は、以後毎年一回行われている。空中給油機への執念は、日米訓練が行われた直後の2003年月5月8日付の『東京新聞』に一面トップで報じられた「北朝鮮基地攻撃を研究 1993年のノドン発射後 能力的に困難と結論」という見出し記事によっても裏づけられる。

この記事によれば、「1993年5月のノドン発射直後、防衛庁防衛局と制服組の一部が、北朝鮮東岸の発射地点に対する基地攻撃の可否について研究した。攻撃機はF1支援戦闘機とF4EJ改戦闘機(5000ポット爆弾搭載)が選ばれた。だが、実施不能と判断された。両機とも朝鮮半島東岸を攻撃して帰還するには航続距離が短く、攻撃後、操縦士は日本海で緊急脱出するしかない。「出撃すれば特攻になる」からだという。関係者の言によれば、「(テーマは)敵基地攻撃をめぐる具体的な研究だった」北朝鮮のミサイル脅威、基地先制攻撃の必要性、それが防衛庁に「空中給油機保有せず」の原則を逆転させるゴーサインと映ったのだろう。