世界経済における7つの現状分析

良い知らせは、この時期が終わりを告げようとしていることだ。しかし衝撃が終わり大半の国家経済が回復したとはいえ痛みはまだ続いており、この景気後退の後遺症はかなり長続きするものと思われる。現在景気回復の形態や期間を予測するのが難しいように、この異例で注目に値する特徴が今回の景気後退を、とりわけ分析及び予測し難いものにしている。結局欧米の企業と金融界は過去十年間、多くの面でより開かれ、透明性を増したものの、「陰の銀行システム」が保有する負債と債券が崩壊したことによって突然大打撃を受けた。その規模や性質、それに世界的影響は規制当局や市場参加者ですら全く分からなかった。

欧米や日本の政府が大掛かりで前例を見ない施策で、この突然の崩壊に迅速に対処したとはいえ依然として特に明確性と透明性を欠く一部金融界では今後も意外な出来事が起こらないとも限らないのだ。更に世界中どこでも政治上予想外の出来事が起こる可能性がある。というのは失業者の増加や金融システム救済のために納税者が強いられる大きな負担、更に公的負債や税負担増への不安などに対する社会的、政治的反応は変転するからである。それにも増してこの経済ショックや欧米の景気後退の特殊な経済環境を考えると景気回復時には心理状態が大きな役割を果たすものと思われる。つまり欧米企業や消費者は景気が回復したなら従来のように借り入れや支出をするだろうか?

あるいは新たな環境では高額の借り入れや多額の支出は危険過ぎると考えるだろうか?その答えを事前に知ることは出来ない。このような極めて不確定な経済環境にあって一体世界経済はどこへ向かっていくのだろうか?経済危機が与えた多くの影響を探るものである。国際金融や通貨、環境問題と資本主義の今後について論じようと思う。世界経済の今後を考えるに当たり単純な予測だと情勢が激変しているため間違いを犯しやすい。むしろ実際に起こる事象やそのリスク、それに地球規模の政策が行なわれた際の影響を分析したほうが良いだろう。そのような分析を行なう上で経済と哲学的指針を与えてくれるのは意外にも、ジョージ・W・ブッシュ大統領の下で国防長官を務めたドナルド・ラムズフェルド氏である。

アメリカのイラク侵攻が大失敗に終わったことは、ラムズフェルド氏が国防長官として不適任だったことを示しているが、それでも彼は優れた分析家であり少なくとも記者会見で出た名言は広く引用されていた。2002年、会見の席上で「私たちは確実に分かっていること、より不透明で分からないことを選別すべきだ」と述べたのである。ラムズフェルド氏は第一のカテゴリーを「既知の既知」とし、第二のカテゴリーを「既知の未知」と呼んだ。後者の第二のカテゴリーは実際に既に知られているリスク、あるいは予想されるプラスとマイナス面である。

彼は更に第三のカテゴリー「未知の未知」があるとし、私達が思いもよらぬような驚くほど無限の力を持った事柄があることを指摘した。世界経済を考察する上では前二者の「既知の既知」と「既知の未知」すなわち分かっている事実とリスクに限定したい。まず世界経済で明白な事実から列記することにしよう。第一の明白な「既知の既知」は世界中で特に欧米と日本において激減する民間需要が増大する公的需要に代替されたか少なくとも補償され、民間負債が公的負債に置き換えられたことである。